裁判報告
第58回口頭弁論
秋もだんだんと深まり、少しずつ寒い日が続くようになりました。
今回もたくさんの方々に傍聴にお越し頂く中、お二人の原告の意見陳述と、弁護団意見陳述が行われました。
原告537番さんは、20年以上前に慢性肝炎との診断を受けた方でした。結婚時に配偶者に対してご自身がB型肝炎にり患していることを伝えられなかったことへの後悔、就業先から肩たたきを受けて自主退職せざるを得なかった悔しさ等を切々と語っていただきました。そして、現時点までで点滴治療の本数は多い年で年間340本ほど、総回数3300本以上で安静目的の入院回数は4回で合計15週間ほど等、ご自身の治療を振り替えるにあたって、治療内容を数値化してその過酷さを表現されました。そして最後に、国に対し、慢性肝炎除斥で支給額が減額されることへの理不尽さを訴えられました。
原告3756番さんは、最近、肝がんと言われた方です。あまりにショックが大きすぎて、医師の言葉も受け入れられませんでした。次の検査でもやはりがんと言われ、恐怖心を抱えながら手術を受けました。けれども、まだがんが残っていて毎日不安を抱えて過ごしています。がんを宣告されて死に直面したことにより、生き甲斐をあらためて意識するようになりました。自分は今、クラリネットが楽しくて、聞いてもらって喜んでもらえるのが嬉しいから、福祉施設や子ども会などで演奏していますと語っていました。少しでも長生きしたい、命の危険にさらされている被害者もみんな懸命に生きているということを国には分かって欲しいと訴えられました。
弁護団からは、長野弁護士が、以前にも指摘した国の対応の遅さについて、再度指摘しました。また、肝硬変除斥を争う原告の方に関する今後の進行について、適切な争点整理をおこなったうえで、必要な証拠取り調べを行い、早期に結審・判決に向けた進行がなされるべきと訴えました。
裁判後は、大阪弁護士会に移り、期日報告集会を行いました。
今回は、大阪市立大学法律相談部に在籍されている学生さんからのご挨拶をいただきました。また、前回期日から今回の期日までの原告団弁護団の活動を紹介したり、新八橋班シンポジウムの報告、近畿2府4県と徳島県の各班からの活動報告等がありました。その中でも特に今回は、教育啓発班からの報告で、初めて患者講義をされた原告の方から感想を述べていただきました。患者講義は、B型肝炎に関する正しい知識を持ってもらうとともに、差別偏見をなくしていく大切な活動です。二度と同じ被害を生み出さないためにも重要です。他の原告の皆さんも、時間を作って患者講義の聴講に行ってみてくださいね。
第57回口頭弁論
平成30年9月14日、大阪地方裁判所にて口頭弁論期日が開かれました。今回の期日では、いつものとおり原告による意見陳述の他、カルテのない患者の遺族が国に対して提訴しているケースで、主治医の証人尋問も実施されました。
意見陳述をして下さった原告番号4362番さんが感染を知ったのは初めの妊娠の時です。妊娠を知って喜び診察に訪れた彼女に対し、産科の医師はB型肝炎に感染しているので治療を優先すべきであるとして、中絶を勧めました。しかし、無症候性キャリアでは経過観察になるため、子どもを中絶する必要はありませんでした。よく分からないまま中絶を選択してしまい、本来喜びであるはずの妊娠や出産が後悔と苦痛を伴うものになってしまったそうです。医療従事者にはB型肝炎に関する正しい知識を持って欲しいということ、核酸アナログ製剤の医療費助成手続きの簡素化、そして、安心して生活できるよう重度肝硬変・肝がん患者への医療費助成制度等の拡充を訴えられました。
続いて、1993年に肝がんで亡くなった兵庫県の男性患者の遺族が提訴しているケースについて、患者自身の持続感染を立証するため、当時の主治医の証人尋問が実施されました。通常、患者が持続感染しているかどうかは、血液検査データなどで立証していきますが、このケースは死亡事案でそうした証拠の収集が困難でした。主治医の先生は尋問において、患者がB型肝炎であったと診断した理由を説得的にお答え下さり、その姿勢は国の反対尋問を経ても揺るがなかったと思います。
その後、大阪弁護士会で、裁判の報告集会が開かれ、弁護団からは法廷で行われた証人尋問の意味をわかりやすく解説しました。意見陳述原告さんからも、陳述書では語れなかった苦労をお話し頂きました。尋問時間が長かったことから、今回は原告交流会を省略することになりましたが、場所を変えて懇親会も開かれ大いに盛り上がりました。
第56回口頭弁論
記録的な猛暑の中、今回もたくさんの方々に傍聴にお越し頂き、原告団から、お二人の原告さんの意見陳述と、弁護団から、早期和解の障害になっている国の被害救済の放置についての責任を問う趣旨の意見陳述が行われました。
原告4283番さんは、奥様が集団予防接種による感染被害者であり、若い頃からご自身の病気のために周囲に迷惑をかけないようにとつつましく生活を送り、家庭にかかる経済的な負担を避けようと満足な治療を受けることもしなかったこと、結婚後、夫婦二人に降りかかってきた試練を乗り越えてきたにもかかわらず、最後は、非情にも肝がんにより若くして命を失ったことを語りました。
病気による影響で手控えを持つ手を震わせながら、余命宣告後、奥様が望んだささやかな願いを夫として実現してあげたことを語る姿は聴く者の胸を打つものでした。
国には、この病気に苦しめられた被害者一人一人の葛藤と苦しみに向き合ってほしい、と意見陳述の最後を締めくくりました。
原告4287番さんは、B型肝炎に基づく慢性肝炎患者としての体験を述べられました。
学生時代からスポーツが大好きだったが、20代半ばで感染を指摘され、一生ウイルスと向き合う人生を送らなければならないことへの不安、そのわずか1年後に発症したことで病状が進行することに対する死への恐怖を赤裸々に語りました。
また結婚を迎えるにあたり、奥様とそのご家族への感染の告知に当たっての内心の葛藤、自分に万が一のことがあった場合に残されることになる家族への心配とその想いを語られ、最後に国に対して、B型肝炎の感染被害者一人一人の変わらぬ苦しみを察していただき、提訴されている全ての方の早期和解をお願いする内容で意見陳述を締めくくられました。
弁護団からは、長野弁護士が、B型肝炎訴訟の提訴・和解の状況と、全国の被害者の1割程度の制度利用に留まる現状について説明し、国に加害者として被害者全員の早期救済にむけた制度の周知徹底の要請を行いました。また併せて、和解にあたり、一般的に提出を求められる資料が、時間の経過によって提出できず和解が滞っている被害者に対して、国は、国側の事情によって救済までに長い時間が経過した事情に鑑み、基本合意書で定められている通り、誠実に和解協議に応じ、和解に向けた努力をすることを要請しました。
裁判後は、AP大阪淀屋橋に移り、期日報告集会を行いました。
今回は、意見陳述をされた御二方と担当弁護士からの挨拶と感想に始まり、前回の口頭弁論期日以降の原告団の様々な活動の報告、また、原告さん同士の交流会を行いました。
報告集会後には、近くのお店で恒例の懇親会も行い、こちらも大いに盛り上がりました。
第55回口頭弁論
今回もたくさんの方々に傍聴にお越し頂く中、お二人の原告の意見陳述と、弁護団から肝硬変の除斥についての意見陳述が行われました。
原告4150番さんは、ご自身も集団予防接種による感染被害者で、慢性肝炎で治療中であり、さらに、お父さんと弟さんも同じく集団予防接種の感染被害者でした。お父さんが肝臓が悪くなり身体が辛い中でも無理をして家族のために仕事を頑張っていたが、平成3年5月、末期の肝がんで余命3ヶ月と診断され、その年の9月に48歳でこの世を去ったこと、弟さんも、小さな頃は、活発で友達も多く、スポーツも得意だったのに、病気のせいで未来を奪われ、人生に希望を持てなくなってしまい、平成18年、壮絶な闘病生活の末、息を引き取ったことなどを話されました。そして、最後に国に対し、自分たち家族のような思いをする人たちの苦痛が少しでも和らぐように、少しでも安心して過ごせるように、早急な救済を望むと訴えられました。
原告4258-1番さんは、ご主人をB型肝炎によってなくされました。ご主人との間に3人の子どもを授かったが、1996年にご主人の肝硬変がかなり進んだ状態になり、医者からご主人の命が長くて2、3年と告げられたこと、その夜は幼い子どもたち3人が成長するまでどうしたらいいのかという不安でいっぱいで眠れなかったこと、気丈なご主人がある日病室で涙を流していたことが忘れられないこと、せめて子どもが成人するまで生きていてほしかったことなどを話されました。その上で、国に対し、ご主人と同じように苦しんでいる方々全員に誠実に向き合って対応してほしいと訴えられました。
弁護団からは、河野弁護士が、原告1761番さんについて、国の肝硬変の除斥期間の起算点についての主張が誤っていること、肝硬変の除斥期間の起算点から未だ20年は経過していないこと、原告さんが被った肉体的・精神的苦痛及び損害などについての主張を行いました。
裁判後は、裁判所近くの貸会議室に移り、期日報告集会を行いました。
今回は、小池さんはじめ患者さんの肝がん・肝硬変の医療費助成制度の創設に向けた活動などの様子を描いたドキュメンタリー番組「願いかなうまで3」を上映したほか、前回の口頭弁論期日以降の様々な活動の報告や恒例となった原告さん同士の交流会を行いました。
報告集会後には、近くのお店で懇親会も行い、こちらも大いに盛り上がりました。
第54回口頭弁論
最近ようやく暖かくなり、春らしい日が続くようになりました。
今回もたくさんの方々に傍聴にお越し頂く中、お二人の原告の意見陳述と、弁護団意見陳述が行われました。
原告3591番さんは、慢性肝炎で2度もインターフェロン治療を受けられました。発熱・倦怠感・脱毛・食欲不振等の治療による副作用の苦しみに加え、入院中に、ご自身が使った食器を煮沸消毒するため他の患者さんとは別のところに置くよう指示されたという病院の差別的取り扱いで、大変辛い思いをされました。そのご経験から、肝炎患者が差別や偏見にさらされることなく、普通に、安心して暮らしていける社会にして欲しいと強く訴えられました。
原告4292番さんは、無症候性キャリアで発症はしておられません。しかし、大多数のキャリアの方が、まだ救済されていないという現状を知り、救済の必要性についてお話して頂きました。一生消えないB型肝炎ウイルスを体の中に持っているという認識は、日常生活におけるちょっとしたことについて不安を煽ってくるということを訴えられました。また、キャリアでも裁判を起こすことができること、発症した場合に追加で給付金を受けられることをしっかり広報して欲しいと問題提起をして頂きました。
弁護団からは、長野弁護士が、国の対応の遅さについて指摘しました。最近では、原告側が資料を提出してから、1年程度かけてようやく検討結果の回答が来ていること、さらに、原告の中には、提訴後2年以上の長期間、何らの回答も得られない方もおり、早期の回答を求めたいと訴えました。
裁判後は、大阪弁護士会に移り、期日報告集会を行いました。
今回は、ロースクールに通われている学生さんからのご挨拶があった他、先日、原告団共同代表を退任された小池さんの引退セレモニーを行いました。小池さんには花束や記念品が贈呈された他、これまでの小池さんのご活躍をまとめたDVDも上映されました。小池さん、長い間、本当にお疲れさまでした。これからも一緒に頑張りましょう。
小池さんをはじめ、患者さんの活動の様子を描いたドキュメンタリー番組「願いかなうまで3」が、3月21日(水・祝)15:54~16:24にテレビ大阪で放映されます。是非ご覧ください。
第53回口頭弁論
今回もたくさんの方に傍聴に来ていただく中、2人の原告が意見陳述を行い、弁護団からも慢性肝炎除斥及び肝硬変除斥についてそれぞれ意見陳述を行いました。
最初に意見陳述を行った原告3844-1番さんは、平成8年に夫を肝臓がんで亡くされた亡くされた遺族です。夫は、感染の原因もわからないまま、未成年の2人の子どもを残し亡くなったこと、その感染原因が集団予防接種によるものであったとわかり遺族として苛烈な被害感情を持っていることなどを話されました。改めて集団予防接種による感染被害の深刻さ、国の責任の重さを問う内容の意見陳述でした。
また、原告4225番さんは、B型肝炎ウイルスのキャリアであることが判明した際に、上司の対応で職場の全員に感染が知られ、深刻な差別・偏見の被害を受けたことを生々しく語られました。また、二次感染した長女に対して申し訳ないと自分を責める気持ちになってしまうこと、長女のためにも国に責任をとってもらおうという気持ちで提訴に至ったことなども話されました。差別・偏見の実態の深刻さ、母親としての心情の辛さ等を吐露され、やはり本件感染被害の重さを感じさせられる内容の意見陳述でした。
次に弁護団からは、奥村弁護士より、慢性肝炎および肝硬変を発症してから20年以上経過してから裁判を起こした原告は給付金が減額される(除斥といいます)問題について、それぞれ意見を述べました。まず、慢性肝炎除斥については、2名の原告について、具体的事情の即して、除斥の適用を否定した福岡地裁平成29年12月11日判決の判示内容を踏まえ、同様の論理が大阪地裁において提訴している原告との関係でも適用され得る旨の主張を述べました。次に、肝硬変除斥について、弁護団から提出済みの意見書および準備書面に対する国の反論が乏しいことを指摘し、速やかなる審理を求めるとともに、肝硬変発症から20年を経過した原告についても、その具体的事情に即して、除斥を適用しない判断を行うよう求めました。
弁論期日終了後、中之島公会堂に移動し、期日報告集会を行いました。
前回同様、集会には、和解された原告を含め、初めて傍聴に来て下さった原告の皆さんもたくさん参加していただき、前回の弁論期日以降に行われた様々なイベントについて報告や、恒例の原告交流会も行いました。原告団・弁護団が長らく求めていた医療費助成制度が予算化にされることに関する状況説明や、弁護団から福岡地裁平成29年12月11日判決の内容についての説明も行われました。
報告集会のあとには、近くのお店で懇親会も行い、こちらも大いに盛り上がりました。