声明文
肝硬変除斥に関する大阪高裁・不当判決に対する声明
1 本日、大阪高等裁判所第9民事部(千葉和則裁判長)は、集団予防接種における注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感染し、慢性肝炎を経て1991年に肝硬変の診断を受けたものの、その時点から20年近くが経過し、非代償性肝硬変を経て肝性脳症という肝不全症状の中でも重篤な症状を発症し、死の危険にさらされて脾臓の摘出手術をうけた現在51歳の原告について、このような経過はすでに最初の肝硬変発症の時点で予期されていたもので、「質的に異なる損害」とは言えないとして、除斥期間(旧民法724条後段)を適用し、原告の控訴を棄却するという不当な判決を下した。
2 そもそも、個々の患者において、どのような場合に代償性肝硬変から非代償性肝硬変に移行するのか、また合併症たる肝性脳症が発症するかなど肝硬変の進展は現在の医学ではまだ十分に解明されておらず、当初の代償性肝硬変発症の時点で、後に非代償性肝硬変(重篤な肝不全症状を伴うもの)を発症することによる損害の賠償を求めることも不可能である。従って、非代償性肝硬変による肝性脳症を発症したことによる損害は、その時点で新たな損害が生じたものとして、除斥期間の起算点としなければならない。
あらかじめ請求できない損害についての請求をしていなかったことを、被害者の不利益に解釈してはならないという民法の本質からすれば当然のことである。
3 ところが本判決は、「非代償性肝硬変への移行をもって、不法行為に基づく損害賠償における質的に異なる病態(損害)が新たに生じたものと法的に評価することは困難」などとして、このような肝硬変の病態に対する理解を誤り、さらには、旧民法724条後段が除斥期間であることを前提としながらも、除斥期間の適用をできる限り回避して被害救済を行ってきたこれまでの最高裁判例の流れを無視し、時の経過のみで国の責任を免じる不合理を認めたものであり、極めて不当な判決と言わざるを得ない。
4 この点、令和3年4月になされた、慢性肝炎に関する最高裁判決は、除斥期間という時の経過による権利の制限を形式的に適用するのではなく、客観的に損害賠償を請求できるかという観点から除斥の適用を制限することにより当該原告を救済したのみならず、裁判長の補足意見では、極めて長期にわたる感染被害の実情に鑑みると、上告人らと同様の状況にある特定B型肝炎ウイルス感染者の問題も含め、迅速かつ全体的な解決を図るため、国に協議を行うなどして感染被害者等の救済にあたる国の責務が適切に果たされることを期待するとした。本日の判決は、このような最高裁判決にも背く誤ったものと言わざるを得ない。
5 我々は、このような不合理な除斥の適用を打破すべく、速やかに上告手続を行うと共に、全国の原告団、弁護団、支援者と一丸となって闘い続ける決意である。
不当な除斥適用判決に対する声明
1 本日、大阪地方裁判所第11民事部(菊地浩明裁判長)は、集団予防接種の際の注射器の回し打ちによって、B型肝炎に感染させられた被害者で、肝硬変の診断を受けてから20年以上が経過した原告について、除斥(民法724条後段)により、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。
本判決は、集団予防接種によってB型肝炎に感染させられ、何の落ち度もないのに、長期に渡り被害を受けてきた本件原告に対し、時の経過のみをもって国の責任を免じるものであり、極めて不当である。
当原告団・弁護団は、このような不当な判決を、満腔の怒りを込めて弾劾するものである。
2 本件原告は、高校生の時に行った献血で肝機能異常とHBV感染が判明した。その後2年ほどの間に肝の線維化が進展し、1991年に肝硬変(代償期)の診断を受けた。この当時は、肝不全症状はなく日常生活に制限を受けるようなことはなかった。
しかし、本件原告の肝硬変はさらに進行し、肝機能は悪化して非代償期に至った。そして、2010年には、肝性脳症を発症して昏睡状態に陥り、死の危険に直面した。加えて、肝性脳症を発症した患者の生存率は大きく低下する。そして、本件原告は、その治療のために脾臓摘出手術を受けた。この手術は、肝胆膵がんでの高難易度手術の死亡率が1%であるのに比して、死亡率が3~5%にも及ぶもので、死のリスクを冒して受けたものであった。
このように、本件原告は、2010年の肝性脳症の発症により、1991年に肝硬変(代償期)と診断された時とは質的に異なる病態に至ったことは明らかである。それゆえ本件原告は2010年を除斥期間の起算点と主張した。
3 本判決は、「B型肝炎による損害について質的に異なる新たな損害が発生した場合を」、「特措法上の『肝硬変(軽度)』であったHBV感染者が同法上の上位の病態」「に進展した場合のみを指すものと解すべきと直ちにはいえない」としたが、本件原告について、「平成3年4月に肝硬変と診断された時点で、肝硬変の合併症である肝性脳症の発症、それへの対処としての本件手術の施術による脾臓摘出、医師による就労制限等を具体的に予見することができなかったものであるにしても、上記時点では既に肝硬変を発症していたものであり、上記事態の進展をもって、本件手術を受けた平成22年11月8日の時点で、肝硬変について、質的に異なる新たな損害が発生したと法的に評価できるとまではいえ」ないと判示した。
本判決は、1991年の肝硬変(代償期)の発症をもって、本件原告の前項で述べた全ての損害について除斥期間が進行し、2013年に提訴した本件では、本件原告の損害賠償請求権は、20年の除斥期間の経過により消滅しているとしたものである。
しかしながら、1991年当時、後の肝性脳症発症(非代償性肝硬変)により本件原告が死の危険に直面することに関する損害を請求することは不可能であり、仮に請求しても裁判所は損害発生の現実的可能性がないとしてその請求を棄却したはずである。にもかかわらず、そのような損害について、1991年に除斥期間が開始するとするのは詭弁である。
本件に除斥を適用することは、著しく公平性を欠く。
4 我々は、この度の不当判決に対し、早急に控訴するとともに、不合理な除斥の壁に立ち向かう被害者全員の救済を求めて、全国の原告団、弁護団、支援者と一丸となって闘い続ける決意であることを表明する。
特定B型肝炎特措法の一部改正法の成立にあたって
1 「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法の一部を改正する法律」(以下「改正法」)が今国会(第190回国会)において全会派一致の賛成で成立し、本年8月1日に施行される予定となりました。
改正法は、平成23年成立の「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」(以下「特措法」)では給付金の請求期限を平成29年1月12日までとしていたところを5年間延長して平成34年1月12日までとしたこと及び給付金の支給対象を拡大して死亡又は発症後提訴までに20年を経過した死亡・肝がん・肝硬変の患者に対する給付金の金額を新たに盛り込んだものです。
2 肝炎は国民病とも呼ばれ、今でも毎日約100名の方が肝がん・肝硬変で亡くなっています。その主な原因であるウイルス性肝炎患者・感染者はB型で100万人から140万人、C型で200万人を超えると推計されています(平成20年度推計)。
特措法は、このうち集団予防接種等での接種器具の使いまわしによりB型肝炎ウイルスに感染した被害者を救済するために平成23年6月28日に私たちと国との間で合意した「基本合意書」を受けて制定されたものです。特措法制定時、国は給付金の受給対象者は45万人を超えると推計しました。国の誤った予防接種行政でこれほど多くのB型肝炎ウイルス感染被害者を生じさせてしまったのであり、被害の甚大を今回改めて訴えたいと思います。
3 今回の改正法の給付金の請求期間の延長については、このように給付金の受給対象者を45万人以上と推計したにもかかわらず、現時点において給付金の支給を求めて提訴した方の数が約3万人、和解をして給付金を受給した方が約2万人に留まっており、この現状からして当然の措置です。提訴・和解者数がこの数に留まっているのは、まだ給付金請求の制度を知らない方が多くいること、そもそもB型肝炎ウイルスに感染していながらそのことを知らない方も多くいることが原因であると考えられます。さらに、制度を知っていても、給付金の支給を受けるには自らの感染の診断のほかに母親や年長きょうだいのウイルス検査結果や医療記録などさまざまな資料の提出が必要であり、それら資料収集の複雑さや困難さなどから請求を断念している方も多くいるものと思われます。制度の周知を徹底し、肝炎ウイルス検査の一層の勧奨を行うことが不可欠であるとともに、和解に至るための手続きにおいて形式的・画一的ではない対応、運用が必要であると考えます。国に対してこれらの対応を求めるとともに、私たちも制度の周知やウイルス検査の必要性を国民に訴え、また、和解要件の柔軟な運用を求めて努力していく所存です。
4 給付金の支給対象の拡大については、平成27年3月に私たちと国との間で合意した「基本合意(その2)」の内容を法律に盛り込んだものです。基本合意書(その2)は、死亡又は肝がん、肝硬変(重度・軽度)の発症から20年を経過して提訴した原告の取り扱いについて定めるものであり、この合意により和解をした原告に対して支給される給付金額が法定されたことになります。
もともと、私たちは、いかなる場合であっても時の経過によって権利救済が制限されることは不条理であり、長く苦しんだ被害者こそ十分な救済を受けなければならないと考えています。しかし、現に死亡後または肝硬変以上の病態で発症後20年を経過して提訴した原告がおり、基本合意がないことで解決が困難な状況にあったこと、また、あくまで差のない解決を求める原告の主張立証活動が制限されることがないこと、多中心性の再発肝がんの場合再発時が20年の起算点となることが確認されたことなどから、基本合意(その2)の合意に至ったものです。
5 もちろん、私たちは基本合意(その2)の内容に決して満足しているものではありません。そもそも、死亡または発症後20年経過の被害者が多数存在するのは、何よりもこれまでの国の対応に原因があります。平成元年に先行訴訟が提起されても平成18年最高裁判決が出されても国は何らの対策を取らず、平成23年の基本合意に至ってようやく責任を認めて救済手段を講じたのです。感染被害者はそれまで権利行使しようにも極めて困難な状況だったのです。この経過からすれば、20年経過被害者の権利を制限しようとする国の対応が理不尽で許されないものであることは明らかです。
今回、改正法は成立しましたが、私たちは引き続き、時の経過によっても差のない解決の実現を求めて最大限努力をしていきたいと考えています。
6 今回の改正法の国会審議においても、以上の問題点や課題が明らかになりました。そのうえで、参議院厚生労働委員会においては、政府に対して、給付金手続きの一層の周知、肝炎ウイルス検査の一層の勧奨、肝炎患者に対する差別偏見の解消のためウイル性肝炎に関する正しい知識の普及など広報・啓発の一層の努力、ウイルス性肝硬変及び肝がん患者に対する医療費助成の検討促進、B型肝炎ウイルス排除の治療薬の研究開発の加速化を求める付帯決議が決議されました。
厚生労働大臣はこの付帯決議について「その趣旨を十分尊重いたしまして努力いたす所存でございます。」と発言していますが、私たちは、国、政府に対して、この付帯決議に盛り込まれた課題の実現について、「努力」にとどまらず十全の実現を求めるものです。
B型肝炎訴訟・基本合意締結及び総理大臣の謝罪を受けて
1 本日、私たちは、国とB型肝炎訴訟解決のための基本合意を締結しました。また、合意後に総理大臣とも面談をして直接謝罪を受けました。これにより、B型肝炎訴訟は原告の個別和解に進むことができます。また、現在原告になっていない感染被害者の救済の途も開かれました。私たちは、本日、基本合意に至ることができたことを心から歓迎するものです。
2 しかし、この基本合意に至るまで、余りに長い時間がかかりました。平成元年に先行訴訟が提訴され、平成18年最高裁判決まで国は因果関係や責任を争い続けました。最高裁判決により国の責任が認められても救済措置は取られず、原告以外の感染被害者に対する謝罪も被害回復もなされませんでした。この間に、どれだけ多くの救われるべき被害者が救われずに亡くなってきたことでしょう。最高裁判決の原告5名うち2名が亡くなり、本全国訴訟の原告も提訴後16名が亡くなっているのです。加えて、この間、両親やきょうだいを亡くし、あるいは、母子手帳や医療記録が処分されるなど救済を受けるための証明手段を失った被害者も多数います。
このように、国が解決を遅らせてきたことは、多くの被害者の命を失わせたことに加えて、救済されるべき被害者の救済手段を奪ったことになるのです。
国はこの点を十分理解・自覚をして、今後の対応にあたるべきです。
3 次に、基本合意書には、国が集団予防接種での注射器等の連続使用によって、甚大なB型肝炎ウイルス感染被害を発生させたこと、さらに、その被害の拡大を防止しなかったことについて責任を認め、感染被害者及びその遺族に謝罪をする旨が記載されています。本日の調印式においても、細川厚生労働大臣は感染被害の発生とその拡大の責任を認めて謝罪をしました。
私たちは、国が謝罪をすることは、私たち被害者の心の慰謝という意味に加え、B型肝炎患者、感染者への差別、偏見を解消する大きなきっかけになるものと考えています。
私たちは、自分の責任でB型肝炎ウイルスに感染したものではない、国の加害行為で生じたたくさんの感染被害者の一人なのだということを国民に知ってもらうことこそが、差別や偏見をなくす最大の方法だと思います。国は、この謝罪の意思を、本日だけでなく、常に国民に対して表わし続けてもらいたいと考えます。
4 さらに、今後2度とこのような感染被害を生じさせないために、国には、このような甚大な感染被害を生じさせ、拡大させた原因を究明し検証を行うことが求められています。合意書にあるとおり、第三者機関を設置し、私たち原告団・弁護団も加えたうえで、きちんとした真相究明・再発防止を行ってもらいたいと思います。
5 今回の基本合意で救済されるのは、感染被害者全員ではありません。被害者の認定のためには、一定の要件が必要であり、さらに前述したとおり、あまりに長い時の経過により証明手段を失った方も多いからです。
そうであるからこそ、肝炎患者への恒久対策を充実していくことが、国の責任でもあるのです。基本合意書には、国が、ウイルス検査の一層の推進、肝炎医療の研究の推進、医療費助成等々の必要な施策を講ずるよう努めることが定められていますが、この点を一般論ではなく具体的に進めることが求められています。さらに、総理大臣は数十万人とも言われる感染被害者を発生させたことの事実を重く受け止め、今日を新たなスタートラインとして基本合意に定められた政策課題を実行していきたいと述べました。その言葉を真に実践するようお願いする次第です。
私たちもこれら施策の実現のために努力する所存です。
6 以上のとおり、本日の基本合意は、B型肝炎訴訟の解決の第1歩となりましたが、B型肝炎問題がこれで解決した訳は決してありません。
和解の内容についても、特に、無症候キャリア及び発症後20年以上経過して提訴した慢性肝炎患者に対する救済水準はまったく不十分なものです。私たちは、今後、この基本合意書の和解内容をさらにより良いものにしていくことが必要であると考えています。
先日の札幌地方裁判所の和解協議期日において、裁判長も、基本合意はベストのものでなく、救済の範囲、額、方法、とりわけ除斥の問題については、「あらためて国会その他の場でより良い解決をいただければと思います。」と所感を述べております。裁判所自らが、立法にあたって除斥期間という「限界」を乗り越えた救済内容を実現すべきであるとの考えを示したものです。
私たちは、今後、個別和解の迅速な実現に全力を挙げてまいりますが、同時に、恒久対策の実現、真相究明と再発防止に尽力するとともに、さらに十分な被害救済の実現を目指して一層努力を続けることをここであらためて宣言するものです。
和解所見に対する全国原告団の声明
1 はじめに
(1)私たちは、本日、本年1月11日に札幌地方裁判所から出されたB型肝炎訴訟の和解所見(「基本合意案」)をうけて、この和解所見に従った和解が可能か否か検討しました。
和解所見は、特にキャリア被害者に対し恋愛や結婚での差別を受けた被害、就職差別を受けた被害、肝炎のみならず肝ガンを発症する不安に襲われた被害を埋めあわせるのには救済内容が不十分であるなど、私たちが本件訴訟で求めてきたものからすれば決して満足できるものではありません。現にキャリア原告から受け入れ困難との意見も出されました。他方、病状重篤な原告も多く、一刻も早い解決を求める意見も多く出されました。また、和解所見には感染被害を発生、放置してきた国の責任について言及されていないことの不十分性を指摘する意見、発症後20年経過の被害者の扱いが明確でないとの意見も出されました。
(2)これらの意見を集約し、討論した結果、私たちは、次の結論に至りました。
和解所見に示された和解の要件と水準については、早期解決のために苦渋の選択ではあるが、基本的には受け入れる、しかし、和解実現のためにはなお解決されるべき課題が多く残されており、以下の諸点の実現・解決が、実際に国との間で和解の基本合意を締結する前提条件であることを確認しました。
2 被害者の全員救済の実現
(1)予防接種を受けた事実について不可能な証拠提出等を求めないこと
被害者認定の最大の問題は、国が、集団予防接種を受けた事実として、母子手帳や予防接種台帳などの提出に固執してきたことです。しかし、幼少期の予防接種は法律で強制され、多数の機会があったから、ほとんど全ての国民は受けています。
和解所見は、陳述書などによる代替立証を認めており、全員救済に道を開きました。しかし、国が数十年前の接種の事実に関して原告らに不可能な証拠の提出を求めることがあっては、全員救済は実現しません。全員救済が現実のものとなるように、陳述書の記載内容やその余の因果関係・病態認定方法を含む和解所見の具体化について、国が原告団・弁護団との間で、さらなる協議・確認を行うことを求めます。
(2)20年以上苦しんでいる慢性肝炎発症患者を切り捨てないこと
国は除斥期間を強く主張していますが、慢性肝炎を実際に発症し、20年以上の闘病生活を強いられている被害者までもが切り捨てられるのは、「長く苦しんだものほど救済から排除される」ことになり、絶対に認められません。この点にこそ、立法を含む政治による解決を求めます。
3 国の加害責任に基づく謝罪等
(1)被害者は何の落ち度もなく大きな被害を受けてきました。国は、国民に対して、集団予防接種による加害と被害の事実とその後の放置・隠蔽の事実を正確に説明して理解を求めたうえで、被害者に対して謝罪すべきです。
私たちは、国が、加害責任に基づく真摯な謝罪を行うよう求めます。
(2)そして、国民全体に対する危険な注射器の使い回しの結果、多数の持続感染者(キャリア)は、いまだに自分が集団予防接種の被害者であることはおろか、持続感染者であることすら気づいていません。
国は、直ちに全国民に謝罪し、自分が被害者でないかを確認するためにB型肝炎検査を受けるよう、徹底的な宣伝行動を行い、被害者に治療を受ける機会を与えて、誠実に償う姿勢を示すよう求めます。
(3)また、国はまたも財源論を強調し、不当に過大な金額をあげてさらには増税論までちらつかせて国民を惑わせ、国民と被害者の間にくさびを打って再び原告ら被害者を苦しめようとしています。このような国の態度は被害者に対する差別・偏見をいっそう助長するおそれがあります。国民に対して、集団予防接種による国の加害責任を正確に説明することなく、被害者への謝罪もしない現在の政府の姿勢は、決して許すことができません。
4 全面解決のために必要な施策
(1)原告ら集団予防接種によるB型肝炎被害者は、病気そのものによる被害のみならず、故なき差別・偏見で苦しめられています。集団予防接種による加害事実を隠蔽し、救済を長期間放置してきた加害者としての国が、集団予防接種の加害と被害の正確な事実関係の説明を国民に対して行い、正確な医学知識の普及による差別・偏見をなくす施策(医療機関・医療従事者の対応についての指導・教育を含む)をとることは、加害者としてなすべき当然の責務です。「私はB型肝炎患者です。」と普通にいえる社会が実現してこそ被害者にとって本当の解決といえます。
また、本件の真相究明と再発防止策も不可欠です。
そして、キャリアを含む全てのウイルス性肝炎患者が、安心して検査・治療を受けて生活ができ、さらなる治療薬の研究開発や治療体制の充実がなされることなどの恒久対策は、本訴訟の大きな目的です。
私たちは個人の賠償の問題ではなく、これらの対策が少しでも実現できるようにと考え活動してきました。私たちはこの恒久対策をさらに進める活動を今後も行っていきます。
(2)これらの施策について国が真摯に対応することを約束し、その実現のための原告団・弁護団と政府との協議機関を設置することを求めます。
5 和解実現に向けての今後の対応
以上のとおり、裁判所の和解所見を前提にしつつも、和解実現のための大きな課題が未だ残されているとの確認にもとづき、全国B型肝炎訴訟原告団は、残された課題の解決によって、和解実現に向けて行動します。
B型肝炎訴訟・第11回和解協議について
1 本日、札幌地方裁判所で第11回和解協議が行われた。
本日の協議においても国から何ら進展のある回答はなかった。
細川厚労大臣も、仙谷官房長官も、国会における答弁において「本年内の基本合意をめざす」と述べていた。にもかかわらず、国からの具体的な回答がなされず、結局、本年内の基本合意の成立がほぼ困難な状況となったものである。私たちは、菅内閣に対して、改めて、強い失望と怒りを覚えるものである。
また、前回の和解協議において裁判所は「和解に向けての裁判所の考えを提示することも視野に入れて」と述べていたが、国の環境整備が整わず、裁判所の考えも示されなかった。私たちは、裁判所から現実に和解に関する所見が示されれば、現在の硬直した状況が改善され、解決に向けて前進するものと考えていたが、それも示されない状況になったことの国の責任は重大である。
2 本年3月12日の和解勧告、5月14日の国の和解協議入りの回答、そして、7月6日の第1回和解協議期日から本日まで11回の協議が行われてきた。この間、国は、集団予防接種でB型肝炎ウイルスに感染した被害者数を40数万人であると推計したうえで、和解金額が膨大になり、国民の理解を得なければならないとも主張してきた。
しかし、そもそも、国が国民に何よりも伝えければならないのは、それだけ膨大な感染被害者を生みだしたことと、その責任が国にあるということである。その事実を先ず国民に伝え、謝罪することである。私たちが本件訴訟を通じて求めてきたのも、何よりも、この感染の事実を明らかにし、国に謝罪を求めることである。
現時点においても、ただちに国はこのことを実行すべきである。
3 和解協議の進行について、新たに1月11日に和解協議を行うこととなったが、本件の解決は、何よりも、菅内閣の決断にかかっている。裁判所での協議期日にかかわらず、解決のための決断をすべきである。
私たちは、あくまで、本年内の国の謝罪と政治決断を求めて、最後の最後まで行動する予定である。
国は、私たちの決意を真剣に受け止め、解決のための決断をするよう強く求めるものである。
B型肝炎訴訟・第10回和解協議について
1 本日、札幌地方裁判所で第10回和解協議が行われた。
本日、裁判所を通して「原告にお伝えするものはない。」として、国から原告に何らの回答もされなかった。
裁判所は、年内解決の可能性を求めるとして、12月27日午後4時30分に次回和解の期日と指定した。
2 次回12月27日の期日を入れるにしても、次回に国から私たち原告に検討に値する内容の回答を持ってこないのであれば、期日を入れる意味がない。私たちは、次回期日までに、国に対して、次の点について回答するように求めた。すなわち、①無症候キャリアに対する内容ある回答、②それ以外の病態についての救済水準、③被害者認定要件について、特に集団予防接種を受けた証明としては、母子手帳以外の立証方法として被害者切捨てをしない要件、④慢性肝炎として救済される被害者として、治療の有無にかかわらずセロコンバージョンした患者も含めるべきことについて特に検討を求めた。
国は上記検討事項について、検討できるかどうかも含めて検討するという対応であり、不誠実極まりないといわなければならない。
3 本日の期日を含め、3回の和解協議期日が無駄に使われたと言わなければならない。
細川厚労大臣は、先日も年内合意を目指すとのコメントを述べているが、本日の和解協議に臨む国の対応は、そのような意思があるとは到底思えないものである。
私たちは、このような国の無責任、不誠実な対応について怒りを覚える。
私たちは、裁判所に対して、あくまで年内解決を目指して積極的なイニシアチブを発揮することをなお求めるとともに、国に対して誠意ある対応を求める。
私たちは、なお、本年内の基本合意を成立させるために最大限の行動を行う考えである。
B型肝炎訴訟・第9回和解協議について
1 本日、札幌地方裁判所で第9回和解協議が行われた。
国は前回裁判所からキャリアに対する救済策及び救済範囲を定める書論点について検討をもとめられていたのにもかかわらず、本日、裁判所を通じて、原告に伝えるべき具体案を何ら用意してこなかった。これは誠実に和解協議に臨む態度とは言えない。
本和解協議において、裁判所は、「キャリアになられて20年以上経過した方も含めて、集団予防接種によりB型肝炎に罹患(感染)した患者の皆様方の早期救済に向けて、双方ともなお一層の努力をされたい」と明言した。これは国の主張する除斥期間の経過にかかわらず、キャリアの方々を救済する必要があることを裁判所が明言したものに外ならない。国は、従来のキャリアに対する政策対応だけに拘泥することなく、裁判所の示した見解に従い、一時金の支給を含めた救済案を提示すべきである。
2 また、裁判所は、本日、早期和解のために年内に新たな和解協議期日を入れることの労はいとわないとして、なお本年内に基本合意を成立させる意欲を示した
これに対して、国は、本日は新たな期日指定を受け入れることはできないとし、この点について消極的な対応であった。細川厚労大臣や仙谷官房長官が年内基本合意を目指すとの国会答弁をしているにもかかわらず、国の姿勢はこれと相いれないものである。この点でも、国は態度を改めるべきである。
3 本日の国の姿勢はまったく不当といわなければならない。国は、裁判所の見解に従い、20年以上経過したキャリアの救済を含めた解決案を早期に提起すべきである。
私たちは、改めて、国が裁判所の見解に従い、無症候キャリアに対する救済対策を含むすべての被害者の切り捨てをせず、命の価値に差を設けない解決案を提示することを求める。
私たちは、なお、本年内の基本合意を成立させるために最大限の努力を行うものである。
B型肝炎訴訟・第5回和解協議における国の和解案について
1 本日、札幌地方裁判所の第5回和解協議において、被告国から「和解金額に関する国の考え方」が示された。この「考え方」において、国はようやく金額を含めた提案を行ったものであるが、キャリアに対する賠償金の支払いを行なわず、肝炎被害者について不当に低額な賠償金額を提示するなど、全体解決にはほど遠い、極めて不十分なものであると言わなければならない。
2 まず、賠償金について、国は、死亡・肝がん・肝硬変(重症)被害者に対して2500万円、肝硬変(軽症)被害者に対して1000万円、慢性肝炎被害者に対して500万円を支払うとしている。しかし、この国の提案額は、生命・身体の侵害を原因とする損害賠償請求訴訟における一般的な賠償水準や、同じ肝炎患者に対する賠償である薬害肝炎救済法の解決水準を大きく下回っており、納得がいくものではない。B型肝炎患者・感染者の命の価値に差を設けることに合理的な理由は見出せない。
国は、因果関係の立証の程度が低いことを低額にする理由のひとつにしているが、本年9月15日付の原告側の意見書?において明らかにしたとおり、本訴訟における原告の因果関係の立証は、従前の判例理論に沿った「高度の蓋然性」が認められる程度に至っているのであり、国の主張には理由がないことは明白である。
3 また、この「考え方」で国は、今回の国の提示額であっても総額最大1.5兆円の財源がかかり、原告側の主張通りであれば最大8兆円の「国民負担」が必要であるとも記載している。これらは根拠もなく不当に過大な、国民を惑わすものと言わなければならない。
何よりも、この訴訟は国の過失に基づく損害賠償請求であり、財源問題を理由に賠償額を減額できるものではない。さらに、国は集団予防接種によりB型肝炎ウイルスに感染した和解対象者の数はキャリアだけでも44万人いると推定している。この数字の根拠自体も薄弱であって根拠のないものであるが、そもそも、この推定が正しいとすれば、国はまずもって、このような膨大な感染被害者を出したことを国民に明らかにして謝罪すべきである。このように国の責任を棚上げにして、多額の財源を必要とすることをあたかも原告の責任のように言うのは本末転倒と言わなければならない。
4 次に、キャリア状態にある被害者に対して、国はなお賠償金の支払いをしないとしている。
国の対応は、キャリアそのものの被害を全く無視するものであり、また、除斥期間を問題にすることについては、これまでの国の対応からして著しく正義に反し許されるものではない。この点は、原告の意見書?で詳述したとおりである。
5 また、今回、母子手帳に替わる証明方法の問題や母子感染否定要件などについては、国から改めての提案はなされなかった。原告の意見書?において、私たちは本件の解決に必要な論点すべてについての考え方を示している。国は、これらについて、早急に解決案を提案すべきである。
6 以上のとおり、本日提案された国の提案は、なお、被害の切り捨てであるとともに、被害者の被害に見合った解決水準になっていない。
私たちは、国に対して、改めて、キャリアを含め一人の被害者も切り捨てることなく、被害者の被害に見合う水準の解決案を提示することを求めるものである。
B型肝炎訴訟・第3回和解協議における国の和解案について
1 本日、札幌地方裁判所の第3回和解協議において、被告国から「和解の全体像に関する国の考え方」と題する書面が示された。
この「考え方」は、前回の和解協議期日において「できるだけ早期に全体案を提示すべき」という裁判所の見解が出されたことにより提示されたものであるが、母子手帳に代わる立証方法、和解金額そしてキャリアに関する考え方が示されたものの、全体解決案としては全く不十分なものであるだけでなく、キャリアをはじめとして被害者の多くを切り捨てるとともに、賠償額を不当に低く抑え込もうとするものである。
すなわち、
(1)国は、キャリア状態にある被害者に対して、①除斥期間の問題があること、②慢性肝炎を発症する割合が相当程度低いから、キャリアに対する一時金賠償は行わないとしている。しかし、接種時から20年を経過したとして除斥期間を問題にするとなれば、ほぼすべてのキャリアが請求権を失うことになる。そもそも、国は、先行訴訟の提起から現在に至るまで2。年間にわたって責任を争ってきたのであり、その国が、その間に20年経過したから請求権が消滅すると主張すること自体、著しく正義に反し到底許されるものではない。
また、キャリアは、発症の恐怖や他者への感染の懸念から自制した生活を余儀なくされ、あるいは社会的な偏見にさらされるなど多大な被害を現実に被っている。国は検査費用等の負担を言うが、その他の被害を一切救済しないことはまったく不当である。
(2)救済水準(和解金額)について、国は、具体的な金額は何ら示さなかった。これでは全対案とは言えない。なお国は、「平成18年最高裁判決の基準を踏まえた合理的な水準」とすべきであるとしているが、平成18年最高裁判決の認容額は、慢性肝炎とキャリアに共通する「持続感染者になったこと」についての精神的損害だけを評価したものであって、それ以上の損害については含まれていない。最高裁判決を基準にするというのであれば、そこに含まれない損害についても正当に評価して損害額を算出すべきである。
(3)さらに、国は、母子手帳に代わる代替案として、予防接種台帳か接種痕に関する医師の意見書などを求めているが、現実には予防接種台帳は短期間で廃棄処分されるものであって残っていないことは明らかであり、接種痕についても接種痕の残らない予防接種も多いものであり、時の経過や体質によって消えるものであり、非現実的な証明を求めるものであって、代替案になるものではない。
2 以上のとおり、本日提案された国の「考え方」は、全体として被害者切り捨ての「考え方」であり、受け入れられないものである。
国には、キャリアを含め一人の被害者も切り捨てることなく、被害者の被害に見合う水準の解決案を、一日も早く提示することをあらためて強く求めるものである。
全国B型肝炎訴訟北海道訴訟の和解勧告についての声明
本日、全国B型肝炎訴訟北海道訴訟事件で札幌地方裁判所(中山幾次郎裁判長)において原告らと被告国に対して、和解勧告がなされた。全国B型肝炎訴訟大阪原告団・弁護団として、かかる和解勧告に対して、以下のとおり声明を発表する。
大阪地方裁判所における訴訟は、2008(平成20)年10月7日付けで第1次提訴し、その後、第6次提訴まで行った。本日時点で原告数は64名に増加し、そのうちの原告は、キャリア13人、慢性肝炎42人、肝硬変3人、肝がん5名、死亡1名という状況である。死亡原告は、昨年12月に解決を望みながら無念にも亡くなったもので、生命の危険に瀕している肝硬変、肝がんの原告も多数いることから、一刻も早く全面解決をする必要がある。また、原告らは法廷で「私自身、いまだに差別や偏見が怖く、親しい友人にすら自分の病気のことを打ち明けられないでいます。・・一生この病を抱えて毎日を不安と絶望感の中で生き続けなければならない者の気持ちを理解して頂きたい。」「ときどきあと何年生きられるのだろうかと漠然と考える事があります。」「定期的に検査や薬を貰うために、通院しだしましたので、・・・・、勤務時間の融通のきく職場を条件に転職活動をせざる得なくなりました。」「病気と闘うための経済的、金銭的負担は大きなものです。・・・病院の診察日が近づくたびに、病気の進行に対する不安とともに、治療費の捻出に頭を悩ませています。」と述べるなど、多くの原告が未だに差別偏見をおそれながら、将来の不安を抱えながら、転職を余儀なくされながら、治療費のための経済的負担に悩みながら、様々な制約を受けて生活を送っている。かかる被害実態に鑑みれば、広く被害救済が行われることが必要である。
前記和解勧告において、裁判所は「和解協議に当たり、救済範囲を巡る本件訴訟の各争点については、その救済範囲を広くとらえる方向で判断し」との所見も示した。裁判所が、被告国に対して広く被害救済の必要性を示唆したものである。われわれ大阪原告団・弁護団は、国に対して、早期に和解勧告の応じるとともに和解所見に従ってB型肝炎患者が安心して生活ができるよう広く被害救済されるよう全面解決を求めるものである。
全国B型肝炎訴訟北海道訴訟の和解勧告についての声明
本日、札幌地方裁判所は、全国B型肝炎訴訟・北海道訴訟について、和解勧告を行いました。
裁判所は、従前より、本件は和解による解決が望ましいとの考えを示していましたが、本日、原告・被告双方に、次回期日を目途に、和解協議に入れるか否かについて検討されたいと、正式に和解の勧告をしたものです。
この勧告で注目すべきは、裁判所が「和解協議にあたり、救済範囲を巡る本件訴訟の各争点については、その救済範囲を広くとらえる方向で臨む」との指針を示したことです。
これまで裁判所は、進行協議の中で原告被告双方の意見を聴取しながら、本件訴訟における主要な争点について整理を行ってきましたが、裁判所は、最高裁判決で確定している国の責任を前提として、被害者を広く救済すべきであるとの立場に立って、和解を勧める姿勢を明らかにしたものです。私たちは、この裁判所の姿勢を大いに歓迎するものです。
本訴訟が提起されてすでに2年が経過しました。この間、すでに北海道訴訟で3名、全国で6名の原告が亡くなっています。現に病状重篤な原告も多数います。本件の解決には一刻の猶予も許されないのです。
「いのちを守りたい」と鳩山首相は何度も国会で演説しています。にもかかわらず、誤った国の行為によって原告たちは命を奪われ、奪われようとしているのです。守るべき命がここにあります。原告たちの命を守らずして、「いのちを守りたい」とは到底言えません。
私たちは、被告国が、今回の和解勧告を受け入れ、B型肝炎訴訟を全面的に解決する方向に姿勢を転換し、一日でも早く和解を実現させること、そして、そのために、原告・弁護団との協議をただちに開始することを強く求めるものです。